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テーマ別企業事例 自社の「強み」×「進出先」が成否を分ける 海外展開に勝算あり

新たなビジネスの可能性や市場開拓へ向けて海外展開を考えている中小企業が増えている。何を売るのか? なぜその商品なのか? どの国に進出するのか? それを分析し自社の強みを明確化することが、何よりも海外でのビジネスの成否の鍵を握っている。そこで、ひと足早く海外でのビジネスを展開し成果を上げている企業の海外戦略に迫った。

事例1 オールジャパン体制で和牛を食す文化を広める

ミート・コンパニオン(東京都立川市)

本社(東京都立川市)を拠点に、各工場施設と国内外の動向や商品開発などの情報交換、効率的な流通経路の開発などを進めている

東京・立川市にあるミート・コンパニオンは、海外への和牛普及を目指し、全国各地の和牛生産者と連携して、ブランド肉「WAGYU SAMURAI」を立ち上げた。タイでは、バンコクにその肉を扱う直営レストランをオープンさせるなど、タイを筆頭にアジアでの和牛輸出に新たな活路を見いだし、展開中だ。

和牛の輸出増加の流れをくみタイ・バンコクに進出

日本の人口減に伴い、食の市場も縮小傾向にある。一方、国産牛肉の海外輸出は増加傾向にあり、2018年の輸出量は約3560tと前年比32%増で、輸出実績は247億円と29%の伸びを示す(財務省『貿易統計』より)。政府が定めた19年の輸出目標額250億円に達する勢いだ。国を挙げて農林水産物の輸出力強化戦略を打ち立て、アジアを中心とした牛肉の輸出拡大に乗り出している。 その時流に乗って、ミート・コンパニオンも海外事業に注力する。

「13年に日本政府が、農林水産物と食品の輸出額を19年までに1兆円にするという目標を設定しました。当時、食品業界もその目標に向かって動き出し、それにいち早く対応した結果、今では輸出できる牛肉卸業者6社のうちの1社に位置付けられています。10年にはマカオ、さらに古くは台湾にも輸出していましたが、11年の原発事故を理由に輸入規制がかかってしまい、弊社にとっても海外への新たな足掛かりを模索していたところでした」

そう説明するのは同社の常務執行役員兼原料商品部部長の福島孝義さんだ。次なる海外事業の候補地、それをタイに定めたきっかけは、13年に開催されたタイの食品総合見本市「タイフェックス」への出展にある。海外への和食PRに力を入れているJETRO(日本貿易振興機構)を介して出展すると、そこで目にしたのは、予想をはるかに超えたタイの首都、バンコクの目覚ましい発展だった。

「現社長・阿部昌史さんの『やるぞ』の号令で、タイでの海外事業が急速に進み、半年で現地法人を立ち上げて、私が担当することになりました」と福島さんは振り返る。

牛肉を食べない食文化に日本食として広める

同社は1974年に牛肉専門の食肉卸問屋としてスタートし、ファミリーレストランをはじめとする外食産業の躍進に比例して、食肉の加工事業も発展。卸と加工の2本柱で事業を展開している。だが、前述の通り国内市場は先細る傾向にあり、3本目の柱として海外事業も視野に入れた。

「タイ人スタッフを雇用し、日本で研修した後に現地で販売スタッフとして活躍してもらう。それと同時に現地の問屋と提携して、そこに肉を卸すというビジョンを描いていました」と福島さん。当時はまだタイに現地法人のある同業者はなかったが、同社のグループ会社である海外輸出食肉取扱認定施設、アグリス・ワンではすでにタイの輸出認証を取得していた。自社によるタイへの輸出販売は順風満帆に進むかに見えた。

だが、実情は違った。事業はここから一年ほど足踏みしてしまう。14年の軍事クーデター以降の軍事政権下による政情不安、そしてタイ進出以前にあった10年の大洪水の爪痕は深く、タイの経済はタイフェックスに出展した時にすでに停滞していたのだ。さらに、タイではもともと牛肉を食べる文化がない。タイでの牛肉の卸先は主に飲食店だが、そこに日本人が一人でもいないと和牛を評価してもらえない。

「うちにはオーストラリア産和牛があるからいいと言うのです。それに現地の人にとって和牛と表示されていれば、それが正当でなくても和牛です。国内で基準を設けて高いクオリティーの牛肉を生産しても、海外ではなかなか通用しない現実がありました」

海外市場では安価な外国産「WAGYU」が広まっており、それに対抗するべく独自に立ち上げたのが「WAGYU SAMURAI」という独自ブランドだ。阿部社長が命名したもので、松阪牛や神戸牛などをまとめてブランド化して、良質な黒毛和牛を育てている全国の生産者ネットワークを構築し、海外市場に打って出る戦略だ。これは国が推進する日本ブランドの輸出推進の取り組みとも合致しており、オールジャパン体制で、極上和牛を世界に普及する狙いがある。だが、販売だけではなかなか現地には根付かない。

そこで同社の次なる一手が、和食として和牛を提供する直営レストラン「WAGYU SAMURAI」の開設だった。

日本の常識が通じない人材育成に悪戦苦闘

「日本のお客さまファーストの価値観は全く通用しません。現地の文化に合わせるのに、心底疲れました。9カ月で9㎏痩せましたよ」と福島さんは苦笑する。本場のタイ料理は、辛いを超えて痛い。それに慣れるのに苦労したそうだが、和牛のおいしさを伝えることはもっと大変だったという。牛肉のステーキ以外の調理法や人気のない部位のおいしさを伝え、新しい需要を開拓しようと、15年にすき焼きやしゃぶしゃぶを提供する高級レストランとしてオープンにこぎつけた。だが、オープンに先立ち、しゃぶしゃぶやすき焼きを、タイ人スタッフに試食させると、なかなか口に運ばない。

「当時は10人中4人が食べる程度でした。牛は農作業に使う家畜であり、食肉としては見ていません。宗教上の理由もありますが、半分は食べたことがないから食べないというのです。生卵はさらに受け付けてもらえず、20人に1人しか手をつけませんでした。中には涙目で『私たちはヘビを食べるけれど、ボスは食べられる?』と迫る者もいて、ヘビを引き合いにするほど嫌だったのかと反省しました」

今では求人募集の際に牛肉が食べられることを条件にしており、「脂身の少ない赤身の方がおいしい」とスタッフらが言うようになったと笑う。生卵も15人中12人は食べるまでになり、「牛肉」は食べないけれど「和牛」はおいしいというように変わっていった。だが、食文化だけでなく、働く姿勢の違いにも福島さんは頭を抱えた。

「雨の日は来ませんし、人前で注意すれば5分後には辞めてしまいます。スタッフを集めて、店内掃除、トイレ掃除、庭掃除をそれぞれ何時までにと指示しても、みんな庭掃除を始めてしまう。理由を聞くと水まきが楽しいからと言うんです。接客でも、お客さまが来店してもぽけ〜っとしていました」 そこで一人一人個別に指示を出すようにし、福島さんは全ての業務を自分でこなそうと腹をくくった。事務処理から調理、肉の加工処理や食材の管理、近隣の飲食店への配達まで、自ら先頭に立って進めた。

異国の文化、政治、習慣を知ることが成功の鍵

口コミや紹介でレストランは評判となり、オープンから約5年で売り上げは3倍、卸販売は15倍に成長した。同社が自社または同業他社に輸出する和牛は、タイのマーケットの20〜25%を占めるまでになった。福島さんも常駐ではなく、日本とタイを行き来する〝通い〟とし、日本人の料理スタッフ1人が、福島さんに代わって切り盛りしている。

「国内での飲食店経営のノウハウを海外に生かし、直営店で自社スタッフがタイ人スタッフに肉の規格や切り方を教え、普及させたことで他社との差別化がかなりできました。また、和食を知らない、味を知らない、加工技術がない。この3点を突いたことが販売促進につながったといえます」と福島さんも安堵(あんど)の表情を浮かべる。

そしてタイでの経験を生かし、3年前からフィリピンでの海外展開も進めている。

「バンコクは世界最悪の交通渋滞で、交通ルールもマナーもまだまだ。これまで4回ほど軽度の交通事故に遭いましたが、客だからと守ってもらえたことは一度もありません。ですが、タイを100とするとフィリピンは300の治安の悪さを感じています。店は構えず、まずは販売のみで進めています」と福島さん。

一昨年は台湾への輸出が解禁され、その直後から台湾との商談も進めているという。タイでのマーケティング不足の反省を生かし、現地法人を設立する前に、マーケティングやセールスの基盤を入念に固めているという。

「文化、政治、習慣が見えてこその海外事業であり、魂込めてやらないと事業が進展しないことも身をもって感じました。若手社員に海外勤務のチャンスがあると言っても、正直まだピンと来ていないようですが、他社より先んじて進めることに勝算があります。それが今です」

日本の常識や社会的ルールが通用しない出来事に直面しつつも、和食文化を通じて和牛普及の先陣を切る。WAGYU SAMURAIの勝負は始まったばかりだ。

会社データ

社名:株式会社ミート・コンパニオン

所在地:東京都立川市富士見町6-65-9

電話:042-526-3451

代表者:阿部昌史 代表取締役社長

従業員:512人

HP:http://www.meat-c.co.jp/

※月刊石垣2019年10月号に掲載された記事です。

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