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テーマ別企業事例 自社の「強み」×「進出先」が成否を分ける 海外展開に勝算あり

事例4 ハトムギ加工などの技術移転でミャンマーと日本のニーズを先取り

西田精麦(熊本県八代市)

ミャンマー、シャン州の州都タウンジーに足を運び、現地の農家と直接会って情報収集や栽培指導にあたる西田啓吾さん

熊本県の穀物加工会社、西田精麦は、ミャンマーでの海外事業を進めている。同社のハトムギの加工、梱包(こんぽう)技術を生かした農業バリューチェーン構築で、現地の農家の収入向上、高品質なハトムギの安定供給、加工・流通の低コスト化を図る。ケシ栽培の代替作物としても有力視され、麻薬撲滅の平和的解決にも貢献している。

製薬会社、JICAを通じてミャンマーとつながる

西田精麦の海外事業の発端は、地域おこしへの参画にあった。同社のある八代市は熊本県南部に位置し、農林水産物が豊富なことから、2013年に県が「くまもと県内フードバレー構想」を策定した。その一環で、八代地域の銘菓でありながら、1955年ごろに姿を消した薏苡仁糖(よくいにんとう)の復活話が持ち上がる。この菓子の原料がハトムギで、大麦をはじめとした穀物の加工メーカーである同社に声が掛かった。

「ハトムギは、医薬名でもヨクイニンと呼ばれていて漢方薬の原料になっています。イボ取りや美肌などの機能性に近年注目が高まる穀物で、これを機に力を入れてみようと思いました」

そのキックオフミーティングへの参加が事の始まりと、代表取締役社長の西田啓吾さんは振り返る。薏苡仁糖の復活に向け、農家や菓子店だけではなく、福岡の製薬会社も参画しており、その製薬会社からJICA(国際協力機構)とともにミャンマーでハトムギの生産実証事業を展開していることを聞く。そのハトムギの現地での一次加工ができないかと相談され、西田さんは可能性を感じた。

「現地で加工までできれば輸送コストを大幅にカットでき、将来的に品質確保と安定供給が図れます。ハトムギの原産は中国南部からインドシナ半島という説があって、ミャンマーはハトムギの栽培に非常に適した気候風土です。JICAの事業を活用すれば、自己資金で投資するリスクを抑えられます」

16年、JICAの「中小企業海外展開支援事業〜普及・実証事業〜」の採択を受け、ミャンマーへの道が開けた。

カントリーリスクよりも先行者利益をとる

だが、海外事業はチャレンジ精神も大事だが、同時に冷静かつ慎重な検討も重要だ。それはJICAにとっても同じ。採択はしたものの、具体的な活動のGOサインに1年半ほどかけた。これまでの普及・実証事業のほとんどがインフラ整備をテーマにしたもので、製造業の技術移転は前例がなかったからだ。

同社も現地の情報収集やカントリーリスクの対策には余念が無い。JICAや前述の製薬会社、現地NPOなど多角的にネットワークを張り巡らし、現地に何度も足を運んだ。

「軍事政権から民主化して3年ほどで、法整備もまだまだです。契約書の効力もこちらが思っているほどにはありません。軍事政権下でまん延していた賄賂などの汚職を一掃するべく取り締まりが厳しくなったのはいいのですが、誰も決定を下したがらない状況になっています」と苦笑する。さらに、ハトムギの加工機材も現地の通関で「武器」と疑われれば、いくら許可証を見せても半年は足止めされ、最悪は破棄させられることもある。

それでもミャンマーでの事業展開には勝算ありと読む。

「社運をかけた事業ではなく、万が一失敗しても取り返せる余力を持って取り組んでいます。リスクを懸念して手を引くより、現地の市場にしっかり根差す先行者利益を取るのなら、今がその時。JICAからの返事がなかなか来なかった時には、自己資金を投資してもやろうという気持ちと準備が整っていました」

食品・医薬品での販路拡大を図る

ミャンマー側から見ても、ハトムギ加工・梱包技術の移転は魅力だ。現地では反政府勢力地域を中心に麻薬の原料となるケシの栽培が広がり、栽培面積は東南アジア最大といわれている。なかでも北東部のシャン州は最大で、国内でも深刻な問題になっている。JICAの事業では、武力衝突に巻き込まれる懸念からケシ栽培エリアには立ち入らず、周辺のトウモロコシ農家を中心に、ハトムギの栽培を促している。相場が変動する輸出向けトウモロコシ栽培よりも高い収益率で固定買い取りし、さらに同社の加工・梱包技術が定着すれば、生産から販売までの切れ目のないバリューチェーンが構築され、付加価値が高まる。

ケシより利があると判断する農家が増えれば、おのずと麻薬撲滅にもつながる。

一方、日本国内に目を移せば、ハトムギの需要は高まっており、国内生産は約1000tで、約6000tをタイや中国から輸入している(財務省『貿易統計』より)。

「当社の主力事業は焼酎やみその原料となる大麦の精麦事業、押し麦やシリアルなどの食用事業、飼料事業と三つあります。現在、食品や医薬品の販路を開拓中で、この先も国内需要は7000〜8000tは見込めます。フードバレー構想における薏苡仁糖の原料確保、それに新しい市場も開拓できそうです」

JICAの事業の期間は2年間で、加工・梱包技術の移転が目的だが、来年の事業終了後は、ハトムギの栽培から一次加工、輸入までを自社管理したビジネスモデルの構築を進める予定にしている。今年6月に200haに種付けして、年内に500t、約6000万円相当の収穫、加工を計画中だ。

「2年後には収穫量を2倍に増やしたいですし、将来的にミャンマー以外の国でも展開したいです」と目を輝かせる。だが、同時に冷静な視点も忘れていない。

「1、2年で成果が出るものではなく、5年でようやく見当がつくと思っています。トレーサビリティー管理に徹し、安心・安全なハトムギの普及に努めるまでです」

そう言ってさわやかに笑った。

会社データ

社名:西田精麦株式会社(にしだせいばく)

所在地:熊本県八代市新港町2-3-4

電話:0965-37-1121

代表者:西田啓吾 代表取締役社長

従業員:81人

HP:http://www.westa.co.jp/

※月刊石垣2019年10月号に掲載された記事です。

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